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sampleとexample

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語源の同じ言葉

今日のA氏とのやり取り。

A 「長崎に行ってきたんで、お土産です」

わたし 「ありがとうございます」 モグリモグリ。

わたし 「結構、おいしいですね。なんか有名なやつですか」

A 「自分が食べたかったのをえらんだだけです。サンプルで、決めました」

わたし 「あ、サンプル食べて『おいしい』ってなって、えらんだ感じですか」

A 「え、サンプル食べるわけないでしょ。プラスチックですよ」

わたし 「あ、サンプルってそういう意味じゃなくて(笑)、なんていうんだ…。試食品だ」

A 「そういうことっすね。いや、プラスチックの食品サンプル見て、『おいしそうだなあ』ってなって、えらんだんです。それはそうと、試食品のこと、サンプルって言わなくないですか」

わたし 「まあ、たしかに?」

わたしの日本語感覚は結構ずれているから、たべものの「サンプル」と言って、どのくらいの人が実際に食べる試食品を思い浮かべるかはわからない。少なくとも、「食品サンプル」といえば、プラスチックが思い浮かぶが、「サンプル」と言われて試食品が思い浮かんだのなぜか……

英語の辞書でサンプルにあたるsampleをしらべてみる。そこには、

  1. 見本、標本、サンプル
  2. 試供品

  1. 試食する

という風に書かれていた。なるほど、名詞の2を見るとわかるが、試供品というイメージがあったのだ。道端で「サンプルお渡ししてまーす」とか展示会で「こちらサンプルです。お試しください」とかいうときは、実際に使える商品を渡す。

日用品のサンプルのイメージがあったから、たべものの「サンプル」といわれて、わたしは実際の物体、すなわち実際のたべものを思い浮かべたのだろう。

そして、動詞の意味を見て興味深かったのは、「試食する」という意味があること。現代語で日常的にどのくらい使うのかはわからないけれど、こちらはまさにたべもの自体を指し示している。

そうしてA氏が今度は、「sampleって、exampleと関係してますか?」と言うので、ODEで調べてみると、語源が同じようである。

sampleとexample。一見、違うように見えるが、xという文字を分解してみよう。

xは「エックス」と発音するように、本来[ks]という音価を持っている。これを仮想的にexampleに当てはめると、eksampleとなり、おやおや、あたまのekを取れば、sampleが現れるではないか。

実際に辞書には、sampleの語源はexampleの頭音消失と書いてある。

考えてみれば、どちらも、いくつもある物から一つを代表的に取り出したもの、という点で意味が共通している。抽象のレベルを挙げれば、ほとんど同じ意味を持つ類義語たちも、実際の用途においては、細分化された機能を持ち、それぞれが微妙なニュアンスを帯びる。

sampleとexampleの違いをあえて分析するならば、sampleは実際に手に取れるような具体的な物を指し、exampleは観念的あるいは言語的な実体を指すという点であろう。

sampleは非常に実際的な物質性を帯びており、手にとって見せることができるようなものである。一方、exampleは、頭の中に思い浮かべたり、口に出して言ってみたりするもので、手に取って見せられる必要はない。統計の分野では「サンプル」という言葉が使われるけれども、実際に存在する集団から具体的な個物を取り出す操作が、手触りを持った具体性を要請してこちらの言葉が選ばれるのだろう。

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