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2025

  • グルメというと、食へのこだわりが強い人を言う。レストランも厳選のものだけに行き、普段の料理にも特別な調味料を加えたり、よく知れた食べ物も一風変わった工夫をこさえてから食したりする。

    グルメの「おいしい」という感覚は、それまでの豊富な経験や多数の知識に裏打ちされた、ある程度信用できるものである。

    「味がわかる」と言うけれども、あまりに高度な料理は、庶民にはわからないことも多い。知人の結婚式で食べた匠のフレンチは、決してまずくはなかったけれど、「わからん」とか「難しい」とかいうのが第一印象だった。それまでに、高級なものや複雑な味わいを経験したことがあれば、その工夫の巧緻に舌鼓を打ったのかもしれない。

    最近「食育」ということが言われる。味覚は生まれながらに決まっているのではなく、幼少期の食事体験によって培われるものだから、いろいろなものを子どもに食べさせようというのである。実際に、小さいころに塩辛いものや脂っこいものばかり食べると、その味を大人になってからも好むようになり、結果的に不健康になる。また納豆とかキムチとか、クセが強いけれど、健康的な食べ物も、無理強いは逆効果だけれど、工夫して徐々に食べさせれば、将来的にこれをよく食べるようにって、よいとのこと。

    わたしは辛いものが苦手だが、インドや中国の一部の地域の人達は、日常的に辛いものを食べる。辛いとも感じず平気で食べるのである。これは、小さい頃から辛いものを普通に食べてきた結果、作り上げられた味覚なのである。

    さて、結局わたしは何が言いたいのだ。

    savoirの語源だ。savoirは[savwar]と発音するフランス語の単語で、「知る」を意味し英語のknowにほぼ対応する。

    また、savourerは同じくフランス語で[savure]と発音し、「味わう」を意味する。

    sav-という要素があるから、調べてみると、やはり語源が一緒である。

    savoirのもとになったラテン語単語sapēreは「味がある」という意味だった。味が感じられることが、発話主体の味覚的感覚の鋭さに広がり、最終的に「知る」という意味が生じた⋯。と、考えたが、ある説明では、ホモサピエンスのサピエンスであるsapiensが影響して、知っているという意があらわれたとある。

    さらに遡ると、インド・ヨーロッパ祖語のsap-という語根にいたり、これは「感じる」を意味したと推定されている。そして、分岐の枝をゲルマン方面に流すと、ドイツ語でジュースを意味するSaft[zaft]もここから来ているらしい。

    savoirとsavourerが、語源を同じくすることはわかった。だからといって、その意味拡大の過程が、味覚の鋭さやグルメの度合いから、物をよく知っている事実へと転用されたと考えるのは、空想にとどめておこう。

    味がわかるという表現が語るように、味覚の識別能力が、知識や経験やに由来するというのは、とても納得できる。

    味覚の鋭さのみならず、物事を楽しいと思えるかどうかの感覚も、知識と経験によることさえある。話を芸術にまで広げれば、「作品を味わう」という表現がある。作品を味わう、すなわち、その作品を喜びとともに鑑賞するには、一定の「知っている」が必要である。

    たとえば、わたしは絵画に明るくないから、大きな美術館の常設展にあるような古典絵画や、シュルレアリスムの抽象画などを、楽しむことができない。(抽象画の一部には本能に訴える何かがあるのも事実だけれど)

    また旅行をするときなども、ある程度行き先の歴史や名産を知ってから行くと、何も考えずにここ最近できた見栄えがいいだけの観光スポットに行くよりは、より豊かな感興を持って観光を楽しむことができる。(めんどうだから毎回事前調査をするわけではないけれど)

    つまり、何かをsavourerするには、その背景をsavoirしていないといけないようだ。

    savoirとsavourerが元をたどれば同じだったということは、多くを語っているようである。

    ......

  • はあの色である。といっても、それぞれの感覚は異なるから、わたしの言う黒を誰もが思い浮かべるわけではない。が、あの黒、全てを呑み込む色。絵具で言えば、色んな色を混ぜる試行錯誤の中、結局できてしまうあの色である。そしてこの語のアントニム(反意語)は白。雪や牛乳の、あの色である。

    ところで、黒を意味する英単語はもちろん、blackである。

    ところが、韓国のノーベル賞作家ハン・ガン氏の『すべての、白いものたちの』という作品に、このような一節を見つけた。

    何年も過ぎた後、生命–再生—復活を意味するその花咲く木の下を通り過ぎながら、彼女は思った。あのとき自分たちはなぜ、白木蓮を選んだのだろう? 白い花は生命につながっている? それとも死? インドヨーロッパ語では、空白blankと白blanc、黒blackと炎flameはみな同じ語源を持つということを、彼女は読んだ。闇を抱いて燃え上がる、がらんどうの、白い、炎たち、——三月につかの間咲いて散る二本の白木蓮は、それなのだろうか。

    つかの間咲くハクモクレンに、白、消滅、炎、というイメージを重ねたこの美しい一段落では、blank、blanc、black、flameという四つの単語がみな同じ起源をもつと書かれている。

    とくに目を引くのは、blackとblancの二つ。blackは英語の「黒」だが、blancはフランス語の「白」である。

    反対の意味を持つ「黒」と「白」が、インドヨーロッパ諸語においては、同じ起源をもつとは面白い。

    四つの単語をそれぞれ個別に見てみる。

    blackには、blという要素が見える。

    blankは、見間違えそうだが、blackの四文字目がcからnになっただけ。辞書の第一義は「空白」。日本語でも「ブランク」という言葉があり、求人広告に見る「ブランクありOK!」とか、数年来にスポーツを再開するときの「ブランクが〇〇年ありますが」、というときのブランクである。また「タブラ・ラサ」の英語は’blank slate’である。

    blancはフランス語の白で、発音は「ブラン」。フランス語は語末の子音を読まないことが多いが、語末の文字は無意味にあるわけではなく、かつて発音されていた名残である。つまりblancの場合、昔は「ブランク」と発音されていたのだろう。

    上の三つにはblがあるが、flameはflであって、仲間はずれに見える。しかし、時代をさかのぼると、flはblだっと推定されている。bとfは音声学的にはくちびるで作る「唇音」に分類され、類似した音である。しばしば、類似した音は交替が起きる。つまり、fがbだっと考えるのは自然なのである。

    四つの単語はいずれもblという要素でつながっているのである。

    ハン・ガン氏の引用で言われているように、つかの間のきらめきというのがこれらの単語を統合する考え方である。

    ハクモクレンは、それ自体白い。しかし、多くの花がそうであるように、その開花はみじかく、あっというまに枯れて散ってしまう。ハン・ガン氏は死という言葉を用いているが、抽象のカテゴリーを上げれば、終わりということになるだろう。

    つまり、ハクモクレンの開花は、十全にその白さを発露してつかの間、消滅し闇に消える。

    インドヨーロッパ諸語(ショゴ)は全て単一の言語から来たとされる。その単一言語はインドヨーロッパ祖語(ソゴ)と言われるものの、その言語で書かれた古文書資料がないために、全ては推定であることは留意せねばならない。

    そのインドヨーロッパ祖語において、blという要素は、燃えるという意味をもっていたと推測されている。火は燃えるときに輝き、しばしば短い時間で消えて、あとには黒い燃え殻が残る。

    こうすると、「黒」と「白」が、同じ根っこを持つということにもうなずける。火が燃える瞬間を切り取れば「白」、燃え終わった結果を切り取れば「黒」なのだ。

    つきなみではあるけれど、「光」と「影」が表裏一体であることをはっきりと表している。

    ハン・ガン氏のように、言語感覚のするどい人は、この一見相反する事実が見方を変えて統合されることに、一種の詩情を喚起されるのかもしれない。

    日本語の「かげ」は、かつて「光」を意味していた。

    反対というのは実は近い関係を持つことなのかもしれない。

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  • すでに音をおぼえた皆さんは、小学校レベルに行きましょう(少し早すぎるかもですが…)。

    小学校では、漢字を学びます。幼稚園や保育園で、すでにひらがなとカタカナは学びますが、日本語の書き言葉を読むためには、漢字が必要不可欠です。

    つまり、小学校に入ってから、書き言葉という大海への船出が本格的に始まります。

    こどもは音から言葉を学ぶ天才ですから、小学校以前でかなり完璧です。ですからそのあとは、すぐ文字を学ぶのが適切です。

    ですが、大人になると音から学ぶ能力はかなり失われてしまうため、第1講の発音はいつでも振り返りましょう。音に関しては、こどもに追いつくために常に練習が必要です。しかし、ここでは、一旦発音が完璧になったという前提で話を進めます。

    この講義は、音の世界と文字の世界をつなぐ部分です。

    アルファベットじゃ足りない

    音は既に見たように、母音17個、子音◯個の合計◯個です。

    ところで、アルファベットは何文字あるでしょうか。考えておいてください。

    フランス語は、アルファベットで書かれます。欧米の言語の多くはアルファベットでかかれます。これは、またの名をラテン文字といいます。古くはローマで使われていた文字で、当時のローマで話されていたラテン語を記すために使われました。したがって、ラテン文字ともいいますし、日本ではローマ字と言う名の方が馴染みがあります。

    アルファベットは26文字。対して、フランス語の音は、◯個。あれ、文字が足りません。多くの欧米の言語でアルファベットが使われていると言いましたが、フランス語だけでなく他の言語でも事情は同じで、たいてい、文字が足りません。

    それでは、どうやって音を文字で表記するのでしょうか。

    2通りの解決策

    アルファベットでは文字数が足りない場合には、主に2通りの解決策があります。1つは、複数の文字で一つの音を代表する、2つは、ダイアクリティカルマークを使うです。

    1つ目は英語でも使われています。たとえば「ちゅ」という音の子音はローマ字にはありません。たとえばchangeという単語のあたまの音はこの「ちゅ」の音。そこでは、chが使われています。ほかにも、check, cheat, chase, cheeseなど、chという文字はどれも「ちゅ」の音になります(例外はあるかもしれません)。つまり、ローマ字にない音にcとhの連続chを対応させているわけです。

    2つ目は、ダイアクリティカルマークです。初めて聞いた人も多いのではないかと思います。英語には基本的にありません。フランス語では、é, è, à, â, ô, çなどの見慣れない文字が使われます(他にもあります)。これらの多くは、ローマ字では区別しきれない音の違いを示すために、小さな記号が付加されています。この小さな記号は、一般的にはダイアクリティカルマークというのですが、フランス語では「アクサン」(アクセントのこと)という方が、伝わります。

    2つ目に関しては、すべての「アクサン」が、音の区別のために使われるわけではありません。日本語の古典仮名づかいのように、昔の発音を示すための印という側面もあります。

    音とつづりは、一対多の関係

    文字のつづりというのは、あまり変化が起きません。一方、音の方はめまぐるしく変化します。このずれが、音と文字の対応の一貫性にずれを生みます。フランス語にも多少その傾向があり、音とつづりが完全に一対一に対応しているわけではありません。

    基本的には、一つの音に対してたくさんのつづりがあります。しかし、一つのつづりに対しては原則的に一つの音しかありません。この点はフランス語の学びやすい点で、英語なんかは同じつづりにいくつも発音がある場合もあるので、個人的には英語よりフランス語の方が、つづりから発音を再現するという点においては、はるかに簡単だと考えています。

    読み方の大原則

    ここでは、文字の読み方の大原則を2つだけ述べておきます。

    これを守れば、フランス語のつづりの50%は制覇したと言っても過言ではありません。

    その1ー最後の子音は読まない

    1つ目は、最後の子音は読まない、です。いくつか簡単な例を挙げましょう。

    pas, cas, mat, sot, tôt

    どれも、語末にsかtを持っていますが、この音は発音しません。これらはすべてローマ字読みが通用するので、カタカナで書くと「パ」「カ」「マ」「ソ」「ト」になります。なんだかどれも、言い足りないような感じですね。

    pasは一歩、二歩の「歩」で、不思議なことに否定の副詞、英語でいえばnotにほぼ対応する単語でもあります。

    casは、英語のcase。つまり、場合という意味です。

    matは、日本語で言う「マットな質感」というときの「マット」です。マットなので、マットとよみたくなりますが、原則を忘れずに「マ」と発音しましょう。しかしややこしいですが、matの女性形[^*1]は形をmateに変えて、この場合「マット」という発音になります。男性形・女性形については、またこの先でやるので、とりあえずここでは忘れてください。

    sotは馬鹿という意味です。女性系はsotteとなって、発音は「ソット」です。

    tôtは英語で言う、earlyで、早いという意味です。「ト」と言っただけで、ほんとうに早いという意味になるのか心配になっちゃうくらい短いですね。

    CaReFuLの法則

    ただ、語末の子音については、CaReFulの法則というものがあります。carefulは英語の注意深いを意味する単語で、*Careful!*っと単体で使えば、「気をつけて!」という意味になりますね。

    CaReFuLの子音である、c,r,f,lが大文字になっているのには理由があって、この4つの子音には気をつけてね!、これは読むんだよ!ということを伝えているのが、carefulの法則です。例を挙げてみます。

    sac, mec, mer, soir, soif, Paul

    {/*

    寄り道ーむしろ、s,tの法則?

    この記事を書きはじめて私も気付いたのですが、「語末の子音は読まない」+「carefulの法則」というのを、「語末のs,tは読まない」=「s,tの法則」と言い換えてもいいのかもしれません。なぜならば、21個ある子音の文字のうち、語末にくるものは実はかなり制限され、実質的にはs,t,c,r,f,lがほとんどを占めているように思うからです。

    読まない子音を含む単語の例を頭の中で考えてみても、どれもsとtで終わるものばかりです(mとnも読まないと言えますがこれは鼻母音になります)。そして、読む単語を思い浮かべると、どれもc,r,f,lで終わる単語ばかりです。s,t,c,r,f,lで終わらない単語もあるにはありますが、たいがいは外来語とか特殊な語で、語末は読んだり読まなかったりです。

    一応、多くの参考書では、「語末の子音は読まない」+「carefulの法則」で、語末の子音の読み方を説明していますから、ここでもそれを踏襲しておきます。

    しかし、その実、多くの単語がsとtで終わりそれは読まない、そしてときどきc,r,f,lで終わるものがあって、それは読む、そしてごくごく稀にそれ以外の子音で終わる単語があって、読むか読まないかはまちまち。このような、状況で、とりあえず「語末の子音は読まない」と言っておけば、大概の単語にはそれがあてはまり、ただときどきの例外はcarefulで処理し、ごく稀な例外は気合で覚えろというのが、この法則の真実だということは付言しておきます。

    ただ、とりあえずは、

    • 語末の子音は読まない
    • CaReFuLの法則

    の2つを頭に入れておきましょう。 */}

    その2ー最後のeは読まない、あるいは、読まない子音を読ませる記号

    中級になりたてくらいで、やって一番恥ずかしい間違いがこれです。わたしも、よくやりました。

    フランス語では、語末のeは読みません。先程は、cas「場合」という単語を例に挙げましたが、それにeをくっつけた、caseという単語を見てみましょう。これもまた英語のcaseなのですが、今度は入れ物の「ケース」です。

    フランス語のaは簡単です。単にローマ字読みをすればOK。ですので、caseという単語もローマ字読みに則って、「カーセ」と読みたくなる。しかし、これは「カーズ」[caz]とよみます。一応音声記号もつけたのは、日本語で「カーズ」というと、「ズ」に母音の「う」が入っているように見えてしまうからですが、「ズ」は母音のない子音だけの音です。また、sがzの音になっているのを不思議に思うかもしれません。これは後でやりますが、フランス語のsは語頭ではsの音で、語中ではzの音になります。

    つまり、casにeを付けたcaseは、eを読まないのです。casは「カ」でありcaseは「カーズ」。見方を変えると、eがついたことによって、読まなかった語末の子音を読むようになったとも捉えられます。これは先程やった「マット」も同じで、matは「マ」ですが、eをつけたmateは「マット」[mat]になります。

    まとめれば、eで終わる単語は、「eを読まない」あるいは「eの前の子音をちゃんと読んで終わる」と言えます。

    初級者を抜け出して中級者に向かうあたりで、読み方の規則を忘れてしまうことがよくあります。忘れることは当たり前の過程で、学習においてはむしろ必要なプロセスですが、ここで言う2大原則を忘れてしまうと、「あなた本当にフランス語やったの?」と聞かれてしまうくらい恥ずかしい間違いになります。

    今のうちに覚えちゃいましょう。そして、覚えるときのコツはいっぱい例をみることです。ですので、以下にたくさん単語を並べておきます。意味はわからなくてもいいので、とりあえず大原則をあてはめて、読んでみましょう。

    ......

  • 第1講を音から始めるのは、ある程度意図があってのことです。

    振り返ってみれば、​わたしたちはどのように言葉を学んできたのでしょうか。

    きっと赤ちゃんの頃に、母親が盛んに話しかける言葉を聞いて、​世界には言葉があるということを知る。そしてそれを真似して、​最初の言葉を発音したのでしょう。​この過程に文字は介入していません。

    しかし振り返ってみると、わたしたちが初めて外国語、​すなわち英語を学ぶとき、​はじめは教科書に書いてある文字から学びます。

    今手元にあるいくつかのフランス語の教科書をみても、​まずは文字から始まり、​そのあと文字の発音が提示されるという順が基本です。つまり、​順番が逆転しているのです。

    歴史を見ても、楔形文字やヒエログリフなど、​初期の文字が発明されたのは、約5000年前程度です。一方で、​ホモサピエンスの歴史は、20万年以上ですから、​文字の歴史というのは、人類全史の2.5%以下に過ぎません。

    わたしたちの言葉は本来、音なのです。

    実際に聞いてみる

    では早速リアルなフランス語を聞いていただきたいと思います。なんとなくオシャレそうとか、なんとなくかっこよさそうとかいう、漠然としたイメージはあるかもしれませんが、実際にフランス語をしっかりと聞いたことのある人は以外にいないかもしれません。Youtubeにあった、Stromaë(ストロマエ)という歌手の、ショート動画です。

    https://www.youtube.com/shorts/QED_XPi74gw

    どういうふうに聞こえたでしょうか。​人それぞれに色々な印象を得たかと思います。

    ある言語に堪能な国文学の教授がいっていたのですが、その人には「じょぼじょぼじょぼ」に聞こえるらしい。私には「ドボドボドボ」とか「​ダバダバダバ」とか「ボボボボ」にも聞こえる。また、​ときどきうがいをしている気もする。ある友人の言うには、​フランス語の音は、はじめ想像したよりも汚い。​Rの音が痰を切るみたいだと。これらは、まっさらな気持ちで、​純粋な音としてフランス語を聞いた際の印象で、​ある面において的を射ているように思えます。

    このジョボジョボ感を演出する主な要素は、鼻母音だと考えています。​何かこう常に膜を張っているというのか、​マイク越しに聞いているというのか。この印象を作るのが鼻母音。​音声学的に言うと呼気を鼻から出す音ですが、感覚的に言うと、​ちょっといやらしい声です。ひらがなにすると「あん」とか「おん」となります。

    鼻母音

    鼻母音が話題に上がったので、鼻母音から話しましょう。読み方は「ビボイン」です。基本的には日本語にも英語にもない音ですので、フランス語を学んだことのない人は初めて出会う音だと思います。フランス語の兄弟であるイタリア語やスペイン語にも鼻母音はありません。同じく兄弟のポルトガル語にはあるようですが、鼻母音というのは、どちらかといえば少数派の存在です。これをマスターすると、ぐっとフランス語らしい音に近づきます。

    基本的には、「おん」([ɔ̃])+「あん」([ɑ̃][ɛ̃][œ᷈])×3の4種類です。

    「おん」を例に取ると、途中まではシンプルな「お」の音です。しかし、途中から「ん」に変わります1。この時に起きているのが、「鼻から息が抜ける」ということです。どんな音でも多少は鼻から息が抜けるのですが、その量が大きくなると「ん」っぽく聞こえます。また「鼻から息が抜け」ていても、すべての息が鼻から抜けているわけではありません。あくまで、鼻から抜ける息の量が普通より多いと「ん」と聞こえる感じです。

    つまり、「おー」と普通に言ってみて、途中から鼻から抜ける息の量を大きくすると、結果的に「おん」と聞こえます。これが鼻母音です。

    こつは、「おー」から「ん」に移る時に、舌をどこにもつけないことです。日本語の「ん」は実は、対応する音声が5種類くらいあるのですが、そのほとんどは舌が口の中のどこかにつきます。しかし、鼻母音の場合、舌は口内のどこにもつきません。日本語の「ん」は基本的に、舌が口内のどこかにつきますから、日本語の「ん」の気分で発音してしまうと、上手く行きません。 ですので、「舌は口の中のどこにも絶対につけず」に、「ん」と聞こえるように鼻から息を抜いてみる練習をすると、上手く発音ができます。

    5つの「う」

    フランス語には、「う」が5つあります。正確に言うと、日本語で聞くと「う」に聞こえる音が5種類あります。どれも、フランス人にとっては全く違う音なのですが、日本人にはすべて同じに聞こえるという、もはや怪奇現象なみのことが起こります。

    そもそも、フランス語には、母音がたしか17個くらいあります(正確には覚えていない)。一方日本語は、あいうえおの5個。母音の数をみると、信じられないくらいの差があるわけです(数え方にもよりますが英語は20以上あるそうです)。日本語は母音の数がかなり少ないのです。ですから、基本的に日本人が外国語を学ぶときには、発音にだいぶ苦戦するわけです(イタリア語とスペイン語は日本語と母音の数がほぼ同じで、よく簡単と言われます)。

    さて、フランス語で一番苦戦するのが、「う」。上級者でも、この音を完璧に発音し分けている人は稀です。音声記号で、一覧にすると以下です。

    1. u
    2. y
    3. ø
    4. œ
    5. ə

    それぞれに注意点やコツがありますが、ざっくり言うと1と2と3,4,5で分けられます。

    u

    1は、日本語の「う」を思いっきり狭くすぼめた感じの音。唇がひょっとこになるまで、口をすぼめて「うー」といいましょう。実は一番簡単なようで、ムズカシイ音でもあります。日本語の「う」で発音すると、ネイティブには5番目の音と勘違いされます。授業を意味するcoursと心を意味するcoeurという単語は、日本語ではどちらも「クール」という発音ですが、授業のつもりで発音したのが、心の意味に取られることがよくあります。

    恥ずかしがらずに、口を思いっきりすぼめる! これが一番大事です。

    y

    2は、とても難しいですが、日本語では「う」というより、「ゆ」に聞こえます。ただ、日本語の「ゆ」とは全く違う音なので注意。中級くらいの人でも、日本語の「ゆ」を使っている人は多いので、変なクセが付く前に、早めにマスターするのが吉です。

    習うより慣れろで、ひたすら聴いて真似るのが一番ですが、いちおうコツはあります。「いー」と言いながらだんだんと口をすぼめていく。あるいは、「うー」と言いながら、舌先をくちびるに近づける。どちらも最終的には1,くちびるがまるい、2.舌先が緊張している、という2つの条件が満たされています。それを、どの順番でやるかの問題で、ようは舌先に力を入れながらくちびるを目いっぱい丸める感じです。ただ、難しいです。ひたすら聴いて練習してみましょう。

    その他

    3,4,5は、実は似通った音です。全部4にしても、フランス人には通じます。なので、躍起になって言い分ける必要はありません。上級者でも、これをいい分けている人は少数です。さきほど、フランス人は5種類すべて聞き分けられると言いましたが、とくに3と4の聞き分けはネイティブでも結構難しい。そして、4は雑に発音すると、5に近づきます。つまり、これらの音は、互いに交換可能な場合も多いです。

    しかし、わたくしとしては3と4は混ぜてもOK。3,4と5は区別して練習した方がいいと考えています。

    Rの音ーうがいあるいは痰切り

    よく学習を始めたばかりの人が、難しいという音です。フランス語は発音が難しい、ほらあのRの音が変じゃん。といって、フランス語の発音の難しさの代名詞にも使われます。

    ですが、実は慣れてしまえば、他のむずかしい音よりは簡単だったりします。いや、難しいからこそ、みんな練習して、ある程度できるようになります。

    Rと言えば、日本語に音写すると「ら行」になるのですが、大胆に言ってしまえば、この音、「は行」に聞こえます。実際に、中級者くらいで、この音をときどき日本語の「は行」で代替する人もいます。わたしも、雑にしゃべっているときには、ときどき「は行」になってしまうことがあります。

    たとえば、「マカロン」を例に取ると、3文字目に「ロ」がありますね。ただ、ネイティブの「マカロン」の発音を純粋に聞けば、「マカホン」と聞こえます。ですのでみなさん、文字にするときは「ら行」にしなきゃいけないのですが、実際の音は「は行」に近いことを肝に命じておきましょう。

    しかし、日本語の「は行」とは、似て非なるものです。よくうがいの音といわれますが、これが一番的を射ている、というより正確な表現だと思います。小難しいことをいうと、口蓋垂(コウガイスイ)摩擦音といいます。このコウガイスイというのは、「のどちんこ」のことです。うがいのときにがらがらするのは、「のどちんこ」と「舌の根元」が近づいて、その間を空気が通ったときに、「のどちんこ」が揺れるからです。

    本質は、「のどちんこ」と「舌の根元」が近づいて、その間を空気が通過することです。ですので、「のどちんこ」が揺れてがらがら聞こえる必要は実はないんですが、学び始めのときは、意識的にがらがらさせるくらいがいいと思います。ガラガラさせ続けると、コウガイスイと舌の間を空気が通っていく感覚が段々と掴めてきます。なれてきたら、ガラガラせずとも、空気が通過する音が出せます。割と澄んだ音です。

    つまり、ガラガラ➙澄んだ音という流れを目指しましょう。

    Footnotes

    1. 正確に言うと、ほとんど最初から「ん」に近い音なのですが。説明のために途中から変わるとしておきます。

    ......

  • フランス語超入門シリーズをはじめます。

    「超入門」と銘打っているので、入門よりも簡単なとってもライトな内容にしようと思っています。

    ですので、これを読んだからフランス語が話せるとかフランス語が読めるとか、そうなれるわけではありません。あくまで、門に入る手前の階段が、ゆるいスロープになればいい、くらいの目的で書き進めていきます。

    「超入門」なので、いままで全くフランス語をやったことがなくて今からはじめようとしてる人だけが対象のようにも思えますが、そういう人だけに向けて書くわけではありません。昔すこしやったけどほとんど忘れてしまって、また再開したいという人や、今絶賛べんきょう中だけれど、わかってるようなわかっていないような気がして、もっとフランス語をより基礎から理解したいという人にもオススメです。

    **

    みなさんはどのような理由でフランス語を学ぶのでしょうか。

    小さい頃から学んでいたなんて人は、ほんとにごく小数の特別な学校に通っていた人だけだと思います。今でもフランス語検定の会場になる暁星高校なんかは、小中高の一貫校で、小学校からフランス語をやります。かなりの名門で、有名なフランス文学者を多数輩出しています。

    しかし、大半の人はそのような学校には通わないですし、大学で学びはじめるのが通常ではないでしょうか。大学には第二外国語という制度があるため、大学に通っていれば、多くの人がほとんど強制で学ばされるでしょう(英語一強時代の昨今、理系のほとんど、さらには文系の一部でも、必修でない場合が多いようですが)。 他には、フランス料理の専門学校に行く人とか、ワーキングホリデーでフランスに行きたい人とか、仕事の関係で必要になった人とか。ここまで挙げたどれも、高校を出た後の話です。

    つまり、大半のフランス語を学ぶ人は、ある程度大人になってからはじめるわけです。

    子どもが学習するときは、子どもなりの特権がありますが、大人が学習するときには、大人なりの特権があります。子どもは、概して耳がよく、聞き取りや発音の点では、大人より一歩先んじていることが多いです。

    ですが大人は、知識や経験、そこから導かれる論理的思考という、特別な能力を持っています。これに偏りすぎてもだめなのですが、ある有名なことわざ?名言?があります。知っている方も多いかもしれませんが、‘Younger is further, older is faster. ‘というものです。若いほうがより遠くに行ける、つまり、最終的な到達点はよりうまくなる。しかし、大人の方が、ある一定の到達点に行くにはより速く行けるということです。

    わたしは、これを可能にする理由が、大人の知識や経験だと考えています。

    「超入門」シリーズは、faster を実現するための、エンジンというのか、アクセルペダルというのか、そういう感じのものです。ここでの話をいつでも頭に入れておくことで、フランス語学習がより効率的に進められるという、確固たる知識になるものです。

    ですので、キソ中のキソとも言えるわけです。建物は、基礎がなければ、倒壊してしまいます。「超入門」は別に無くても、倒壊はしませんが、このキソがあれば、その上に安定した知識が着実に積み重なっていく。そうすることで、不安定な積み木をする人よりは、何倍も速く一定のレベルに到達できます。

    建物のキソは一番はじめにしか造ることができませんが、ここでのキソはいつでも組み直せます。ですので、今から学びはじめる人だけでなく、現在学習中の方が、振り返っても役に立つものだと思います。また、一度読んだ後でも、もう一度読み直すことで、さらなる基礎固めができるはずです。

    ***

    [第1講義は「おと」についてです。]

    ......

  • 本サイトの目的

    目的と書いておきながら、それほど明確な目的があるわけではありません。

    何かじぶんの考えたこととか、感じたことをブログにしてみたいと、かねてから思っていたのですが、やる気の面や技術の面がついてこず、なかなか始めることができませんでした。

    はてなブログやNoteもあるのですが、だれかが作ったアプリケーションでは、なんというのか、じぶんのものでないような感覚があって、投稿がつづきそうもなく、はじめることもしませんでした。

    今は、技術面がともなってきましたし、ある程度書く習慣や方法論も身に付いてきたので、良い機会と思い、このサイトを開きました。

    あとは、文章を書く習慣を付けたかったというのもあります。論文を書いたり、本を読んだりするのが、ほとんど仕事とも言っていいタスクですので、その質や生産性を上げるのに役立つかなという思いもあります。

    サイトに用いている技術

    大もとはAstroで、一部の動的ロジックにはSvelteを用いています。データベースにはsupabase、ホスティングサービスはNetlifyを使っています。CSSはTailwindを使い、さらにDaisyUIというTailwindライブラリも使用してます。

    Astrowindという、AstroとTailwindを軸にしたサイトテンプレートを、じぶんなりにカスタマイズして作っています。デザインセンスというか視覚的才能が本当に皆無なので、見た目に気になるところがあるかもしれませんが、ご容赦ください。

    追記:作り始めから何度かテーマを変えました。現在はAstro citrusというテーマを使っています。テーマの世界を知らなかったので、Astroに便利なテーマがいっぱいあるのを知って、色々あさりました。結局自分でいじりたくなるので、最終的には非常にシンプルなテーマにして、それをカスタマイズしています。コメントやいいねボタン、フォーム、カラーパレットなどの動的な箇所はだいたいSvelteとAstro Actionsの組み合わせで書いています。

    正直最初のAstroWindが一番コードが綺麗で保守性が高かったのですが、これはコーポレートサイト向けだったので、デザインについては結局ほぼフルカスタマイズしないといけなかったので、まあ今のテーマで満足しています。Astro ctrusはcssがしっかりしているので、カラーテーマの調整がしやすかったです。

    自己紹介

    フランス語が専門の大学院生です。いちおうの研究対象は18世紀フランスの科学、特に光学思想ということになっています。基本的には、フランス語や英語の文献をひたすら読んでいます。

    多言語学習が一つの趣味です。軽く勉強しただけを含めれば、イタリア語、スペイン語、ドイツ語、ロシア語、ギリシャ語、ラテン語、サンスクリット語、アイヌ語、古典日本語などをやりました。

    ただ、どれも中途半端です。強いてできる順を挙げれば、フランス語>英語>ドイツ語>ロシア語>その他ウゾウムゾウです。それぞれの言語で単語をどれくらい知っているかも把握しているつもりですが、フランス語1万強、英語1万弱、ドイツ語1,500程度、ロシア語500程度、その他数十語なので、このように可視化すると、どれも大したことないのがわかります。

    フランス語が専門なので、一番できるつもりです。フランスに1年弱留学し、フランス語検定1級も持っています。少しだけ通訳の仕事もしました。

    語学以外にも、哲学、文学、言語学にも幅広く興味があります。ですが、すべて中途半端で、よく言えば幅広い、悪く言えばミーハーということでしょうか。

    理系の大学を中退し文系の大学に入り直したので、プログラミングがある程度できます。しばらくやっていませんでしたが、学部のときに一度就活のフリをして、プログラミングができたほうが良いかと思い学び直しはじめました。今はもはや趣味でやっています。一番ちゃんと勉強したのはPythonですが、単語アプリ開発をきっかけにSvelteをはじめ、このブログはAstroで書いているので、実際に書くのはjavascriptが多いです。Pythonは体系的に学んだのでデータ型やメソッドなどもある程度アタマにあるのですが、javascriptは作りながら覚えていった感じなので、体系的な知識はありません。

    あとは詩が好きですので、フランス詩や日本の詩の紹介などもするかもしれません。

    CV

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